AIをマーケティング業務へ組み込もうとすると、最初に考えたくなるのは「何を自動化できるか」ではないでしょうか。アクセス解析、SEO、記事作成、SNS運用、レポート作成。AIと外部サービスをつなげれば、自動化できる範囲はかなり広がっています。
私自身も、自社サイトの運用を題材に、GA4やSearch Console、WordPressなどの情報を取得し、複数のAIが分析して、週次で優先施策を提案する仕組みを作っています。こうした基盤をどう作ったのかについては、以前の記事「ChatGPT PlusとGoogle Cloud無料枠で、自社マーケティングAIの土台を作ってみた」で詳しくまとめています。
ただ、実際に設計を進める中で難しかったのは、自動化の範囲を広げることではありませんでした。どの情報を事実として扱い、どこからを仮説とするのか。どの程度の根拠があれば行動してよいのか。複数の施策候補から何を優先し、どこで人間が最終判断するのか。こうした意思決定の基準を外に出すことでした。
markeTransでは以前から、数字そのものよりも、数字をどう読み、次の判断につなげるかを重視しています。AIをマーケティングへ組み込むときも、この考え方は変わりません。
最初に設計すべきなのは「何を自動化するか」ではなく、AIにどの判断まで任せ、どこで人間が責任を持つのかという境界です。
最初に自動化したのは、分析ではなく「観測」だった
自社マーケティングで最初に困っていたのは、分析能力ではありませんでした。クライアントのサイトであれば、定例会議があり、数字を確認する日も決まっています。一方、自社サイトにはそうした強制力がなく、「今週GA4を見よう」と思っていても、急ぎの案件が入れば簡単に翌週へずれます。
そこで最初に自動化したのは、戦略立案ではなく定期的な観測でした。GA4やSearch Consoleなどのデータを決まったタイミングで取得し、サイトの状態を確認して、レポートとして届けるところから始めています。
実際に動かしてみると、Soft 404候補やサイトマップに残った旧URL、リダイレクト設定など、普段なら後回しになりやすい問題が拾われるようになりました。どれも大事故ではありませんが、放置すれば検索エンジンにも利用者にも分かりにくい状態が積み重なります。自社サイトがAIや検索エンジンからどう見えているかを検証した過程については、「AIに自社サイトを正しく読んでもらうには? 検証から見えたSEO・LLMOの改善点」でも整理しています。
最初に価値を感じたのは、AIが高度な分析をしたことではなく、人間が忘れやすい観測を、決めた頻度で確実に続けられるようになったことでした。
AIには判断も任せる。ただし、事実と仮説を混ぜない
観測を自動化した次に必要になったのが、「では何をするのか」という判断でした。
例えば、検索流入が減ったとします。「検索流入が減った」はデータで確認できます。一方で、「Googleからの評価が下がった」はまだ仮説かもしれません。特定の記事だけが落ちている可能性もあれば、検索需要そのものが変化している可能性もあります。
さらに、「だから新しいSEO記事を書くべきだ」となれば、これは原因分析ではなく行動の判断です。
AIへ「アクセスが減った原因を分析して、改善策を出して」と一度に頼むと、事実、解釈、仮説、施策が一つの回答の中でつながりやすくなります。そのため、自社の運用では、判断を次のように分けています。
確認できた事実
→ そこから読み取れること
→ まだ確定していない仮説
→ 次に行うこと
内部的には、FACT → INTERPRETATION → HYPOTHESIS → ACTIONという形です。簡単に言えば、「事実」「読み取り」「仮説」「行動」を混ぜないというルールです。
AIに任せる範囲をデータ整理までに限定する必要はありません。解釈や仮説、優先順位づけまで担わせることはできます。ただし、推測が事実として扱われないこと、判断の根拠を人間が追えること。この二つは崩さないようにしています。
データが少ないからこそ、「断定」と「検証開始」を分ける
この判断設計で特に悩んだのが、小規模サイトのデータ量です。
中小企業や小規模事業者のWebサイトでは、大規模ECやメディアのように大量のアクセスが集まらないことも珍しくありません。数人の違いで前週比が大きく動くため、厳密さを求めすぎると「サンプルが少ないので、もう少し様子を見ましょう」という結論が続きます。
もちろん、少ないデータから強い結論を出すべきではありません。ただ、それを理由に何もしなければ改善も進みません。
そこで現在の運用では、**「断定には強い証拠を求める。一方、検証を始めるためには弱い手がかりでもよい」**という原則を置いています。
サイト全体の構造を大きく変えるなら、相応の根拠が必要です。しかし、内部リンクの追加、旧URLの整理、CTA表現の小さな変更など、元に戻しやすく、費用も小さく、他施策への影響も限定的な変更であれば、弱い兆候をきっかけに試すことができます。
つまり、根拠の強さに応じて、行動の大きさを変えるということです。
AIには、施策を増やすだけでなく「候補を減らす役」も必要だった
AIへ改善案を求めると、候補はいくらでも出せます。SEO記事を書く、SNSを増やす、CTAを変更する、LPを作る。問題は、実行できる量には限界があることです。
自社の週次運用では、提案数を最大5件としていますが、5件を埋めることは求めていません。重い施策が一つあれば、その週は1件でもよい。AIには提案の優先順位だけでなく、一週間で実行できる総負荷まで考えさせるようにしています。
また、大きな変更を複数同時に行えば、翌週数字が動いたときに何が効いたのか分からなくなります。そのため、期待できる効果だけでなく、元に戻せるか、作業量は現実的か、ほかの施策と干渉しないか、結果から何を学べるかも判断材料にしています。
AIを導入した結果、人間が抱えるタスクだけが増えてしまっては意味がありません。AIにはアイデアを増やす役だけでなく、実行可能性に照らして候補を減らす役も必要です。
Webデータだけでは、「今その施策をやるべきか」は分からない
AIによるマーケティング判断でもう一つ欠けやすいのが、事業側の情報です。
GA4やSearch Consoleを見れば、Webサイト上で何が起きているかはある程度分かります。しかし、「今、問い合わせを増やすべきか」は分かりません。
例えば、数字だけを見れば「CTAを強化して問い合わせ数を増やした方がいい」という判断になるかもしれません。しかし、既存案件で稼働が埋まっている時期なら、新規案件を積極的に増やすことが最優先とは限りません。反対に、新しいサービスを伸ばしたい時期なら、短期的なCV効率が多少低くても、そのサービスに関する発信を優先する可能性があります。
そこで、自社の仕組みでは、**「今、事業として何を優先しているのか」**という情報も判断材料に入れています。内部ではBusiness Contextと呼んでいますが、本質は、数字には表れない現在の事業状況です。
過去に人間が承認、見送り、却下した判断も保存しています。ただし、それを固定ルールにはしません。前回は見送った施策でも、事業状況が変われば今週は採用するかもしれないからです。
Webデータだけでは意思決定は完結しません。必要なのは、サイトで起きていることと、会社として今やるべきことをつなぐ情報です。
人間を残すのは、最終判断に事業責任があるから
自社の仕組みでは、WordPressへの公開や重要なサイト変更、SNSの自動投稿などは、現時点では完全自動化していません。
これは、AIには判断を任せないという意味ではありません。AIには、観測、整理、解釈、仮説形成、優先順位づけまでかなりの範囲を任せています。
それでも人間の承認を残しているのは、外部公開や大きな変更には事業上の責任が伴うからです。
この表現をブランドとして出してよいのか。今は案件を増やしたいのか。本当に今週その施策をやる必要があるのか。短期的な数値改善と、中長期の事業方針が一致しているのか。
「AIは作業、人間は判断」という単純な分け方ではありません。AIも判断します。その判断過程を人間が確認できるようにしたうえで、責任を伴う地点に人間の承認を置くという設計です。
AI導入で一番難しかったのは、判断基準を外に出すことだった
自社のAIマーケティングチームを作る中で、一番時間がかかったのは、どのAIモデルを使うかを選ぶことではありませんでした。
難しかったのは、自分自身が普段どのように判断しているのかを言葉にすることです。
何を事実として扱うのか。どの程度の根拠があれば試してよいのか。どこまでのリスクなら許容できるのか。一週間で実行可能なのか。ほかの施策と干渉しないか。今の事業状況で本当に優先するべきなのか。
普段は経験の中で半ば無意識に判断していることでも、AIへ仕事を渡そうとすると、その基準を外へ出さなければなりません。
この作業を通じて、AI導入とは、業務を自動化するだけでなく、自社の意思決定方法を言語化する作業でもあると感じました。
どのモデルを使うか、どのサービスと接続するかはもちろん重要です。ただ、「この仕事では何を見て、どう判断するのか」が整理されていなければ、AIはもっともらしい提案を大量に出すだけになりかねません。
逆に、この判断基準を役割ごとに整理できれば、数字を見る視点、検索を見る視点、サイト改善を見る視点、優先順位を考える視点といった、本来チームの中に持ちたい複数の視点を、小規模な組織でも持ちやすくなる可能性があります。
AIを導入する前に、まず一つの業務で「判断の流れ」を書き出す
これからマーケティング業務へAIを取り入れるのであれば、最初から複数のAIエージェントや大規模な自動化を作る必要はありません。
まず一つの業務を選び、次の4点を書き出してみてください。
何を事実として確認しているのか。
どこからが解釈や仮説なのか。
どの条件なら実際に動くのか。
どの地点では人間が承認するのか。
この流れが見えてくると、AIに任せられるところと、人間が責任を持つべきところも見えやすくなります。
AIの性能や使うサービスはこれからも変わります。一方で、企業としてどの情報を見て、どう判断し、どの地点で責任を持つかという設計は、それほど簡単には変わりません。
自社でAIマーケティングチームを作ってみて、今のところ一番大きな学びはここです。
AIマーケティングで最初に設計すべきなのは、自動化の範囲ではなく、意思決定の流れそのものです。
今回紹介した仕組みを、ChatGPT、Google Cloud、MCP、Gmailなどを使って実際にどう構築したのか。その過程でどこに詰まり、どのように現在の形へ変えていったのかは、noteで制作ログとしてまとめています。
AIも、Webサイトも、データも、それ自体が目的ではありません。事業として次に何を判断するか。そのための材料として、どう使うかを考えることが重要だと思っています。
