採用広報のためにInstagramを運用しているものの、SNSからの応募や問い合わせがなかなか確認できない。投稿は見られているし、フォロワーも増えている。それでも「採用につながっているのか」と聞かれると、答えに困ってしまう。採用サイトやSNSを運用している企業では、こうした悩みがあるのではないでしょうか。
私が支援している専門職の採用案件でも、SNSと採用サイトを組み合わせた情報発信に取り組んでいます。Webサイトでは見学や面談などの問い合わせが継続して発生するようになりましたが、ある期間のアクセス解析では、問い合わせに至ったユーザーの初回流入経路にSNSが確認できませんでした。一方、採用担当者からは、実際に見学や面談に訪れる方にもSNSの存在が認知されているようだという話を聞いています。
この結果をどう解釈すればよいのでしょうか。SNSからの直接的な問い合わせが計測できないからといって、採用広報に役立っていないと判断してよいのでしょうか。
今回の案件では、こうした疑問に向き合いながら、採用サイトのアクセスや問い合わせの動きを複数年にわたって分析し、候補者の年間行動について仮説を立ててきました。この記事では、採用マーケティングの効果測定をテーマに、SNSと採用サイトの役割、データを使った仮説検証、採用候補者の動きに合わせたコンテンツ設計について、実際の運用経験をもとに考えます。
採用マーケティングでは、応募までの過程をどう評価するか
採用マーケティングとは、採用候補者が企業や職場を知り、興味を持ち、比較・検討を経て応募するまでの過程を捉え、適切な情報提供や接点づくりを行う考え方です。採用広報や採用サイト、SNS運用も、その取り組みの一部として位置づけられます。
採用活動の最終的な成果は、採用人数や採用した人材との適合性などで評価されます。しかし、そこに至るまでの過程を把握しなければ、情報発信がうまくいっているのか、どこを改善すべきなのかを判断することは難しくなります。
例えば、採用サイトへの訪問が増えているのに問い合わせが発生していない場合、集客する相手が適切なのか、必要な情報が掲載されているのか、問い合わせまでの導線に問題がないか、といった複数の可能性を考える必要があります。反対に、訪問数が減少していても問い合わせが増えているのであれば、単純に集客が悪化したとは判断できません。
今回の採用支援で特に意識してきたのは、こうした数値の変化を、候補者の行動と結び付けて解釈することです。
1年目のデータから、採用候補者の年間行動について仮説を立てた
アクセスが減っているのに、問い合わせは増えていた
今回の案件では、採用サイトのセッション数やページビュー(PV)数、よく閲覧されるページ、問い合わせフォームの利用状況などを月次で確認しています。セッション数はWebサイトへの訪問回数、PV数はページが閲覧された回数を示す指標です。
運用1年目の分析で注目したのは、Webサイトへの訪問が減少する一方、見学や面談などの問い合わせが増加する時期があったことでした。アクセス数だけを見ていれば、集客状況が悪化していると考えたかもしれません。しかし、問い合わせが増えている以上、その時期の訪問者には、それまでとは異なる行動傾向がある可能性を考えました。
そこで立てたのが、採用候補者が幅広く情報を集める段階から、進路先を具体的に検討する段階へ移行しているのではないか、という仮説です。
もちろん、セッション数の減少と問い合わせの増加だけで、候補者の検討段階が変化したと証明できるわけではありません。検索順位や発信内容、募集日程など、別の要因が影響している可能性もあります。そのため、この時点では結論を出さず、翌年以降のデータと照らし合わせて確認することにしました。
候補者の行動を4つのフェーズに整理する
1年目の観測をもとに、今回の採用対象者について整理したのが、次の年間行動モデルです。
| 時期 | 想定する候補者の行動 | 情報発信で重視すること |
|---|---|---|
| 2〜3月 | 予備情報収集期 | SNSなどで接点を増やし、職場の存在や魅力を伝える |
| 4〜5月 | 情報収集期 | 採用サイトの情報を充実させ、仕事内容や職場環境への理解を促す |
| 6〜8月 | 進路先検討時期 | 見学会や説明会など、具体的な比較・検討に必要な情報を提供する |
| 9〜10月 | 進路先決定時期 | 見学・面談などの交流機会や、最終判断に必要な情報を提供する |
この表は、今回の案件で設定した行動仮説と、それに対応する情報発信の方針を整理したものです。すべての施策を表のとおりに実施したという意味ではなく、また、11〜1月に採用候補者の活動がないことを示すものでもありません。
採用候補者の動きは業界や職種、採用形態によって異なります。新卒採用と中途採用では活動時期も異なりますし、通年で採用している企業では、こうした明確な季節性が見られない可能性もあります。したがって、このモデルを他の企業にそのまま当てはめるのではなく、自社の採用状況に応じて検証する必要があります。
2年目の検証では、4つの指標を組み合わせて判断した
1年目に設定した仮説は、2年目も同じ観点でデータを確認し、前年の動きと比較しました。そこで重視したのは、アクセス数の増減だけでなく、訪問者がどのような情報に触れ、問い合わせまで進んでいるかという点です。
実際の分析で主に確認しているのは、次の4つの指標です。
| 分析指標 | 確認すること |
|---|---|
| セッション数の増減 | Webサイトへの訪問が時期によってどう変化しているか |
| PV数の増減 | 閲覧量や訪問あたりのページ閲覧がどう変化しているか |
| よく閲覧されるページの変動 | 情報の種類によって、閲覧状況がどう変化しているか |
| フォーム到達〜完了の推移 | 問い合わせフォームへの到達と送信完了が、どのように推移しているか |
例えば、セッション数が増えていても、採用とは直接関係しない情報へのアクセスが中心であれば、採用候補者の関心が高まっているとは限りません。一方、サイト全体の訪問数が減っていても、募集情報や職場紹介のページが引き続き閲覧され、フォームへの到達や問い合わせが増えているのであれば、より具体的な検討を行っている訪問者が増えている可能性を考えられます。
フォームの分析でも、到達した件数と送信完了した件数を分けて確認します。フォームへの到達が増えているのに送信完了が伸びていなければ、入力項目や申し込み前の説明などを見直す余地があるかもしれません。ただし、フォームの計測定義や対象期間が揃っていることが前提であり、送信を途中でやめた理由までは数値だけではわかりません。
こうした指標を組み合わせて前年と比較するなかで、当初想定していた季節的な傾向を確認すると同時に、想定とは異なる変化も見られました。例えば、過去には夏頃から訪問数が落ち込む傾向がありましたが、翌年の同時期には横ばいで推移したこともあります。SNSによる認知拡大が関係した可能性も考えましたが、それだけを原因として断定できるものではありません。
このように、仮説どおりの動きだけを探すのではなく、予測から外れた変化も含めて評価することで、候補者の行動に対する理解を深めてきました。
3年目以降は、季節要因を月次レポートの判断に取り入れた
複数年の観測を経て、今回の案件では、年間の行動モデルを月次レポートの季節要因として扱うようになりました。これは、季節性を統計的に証明したという意味ではなく、これまでのデータから一定の確からしさがあると判断し、実務上の評価基準に取り入れたものです。
例えば、情報収集が活発になると想定している時期にセッション数が伸びていなければ、検索流入や発信内容、採用サイトの情報が不足していないかを確認します。反対に、進路先の検討が進むと考えられる時期には、アクセス数だけでなく、職場紹介や募集情報への閲覧、フォームへの到達状況にも目を向けます。
実際の月次レポートでも、前年との比較や季節的な傾向を踏まえて、次の情報収集期に向けたコンテンツの準備や、見学・説明会などの告知時期を検討しています。ただし、月次評価に季節要因を取り入れたことと、提案した施策がすべて実施されたことは別です。
この取り組みで変わったのは、月次レポートの数値に対する見方です。単純に前月より増えたか減ったかを評価するだけでなく、その時期にどのような候補者の行動を想定しているのか、過去の傾向と比べて何が違うのかを確認するようになりました。
採用マーケティングでは、データが蓄積されるほど多くのことを判断できるようになる一方、過去の傾向に引きずられる危険もあります。採用制度や候補者の行動が変化すれば、それまでの仮説が当てはまらなくなる可能性もあるため、季節要因を固定的な正解として扱わず、継続して見直すことが必要です。
集客するコンテンツと、応募を後押しするコンテンツは異なる
閲覧数の多いページだけを評価しない
年間の行動分析と並行して確認してきたのが、どのようなページが閲覧されているかという点です。
今回の案件では、専門的な情報や現場の活動を紹介する記事が、検索エンジンからの訪問を集める傾向にあります。一方、仕事内容や職場の特徴、スタッフインタビュー、募集情報などのページでは、訪問数がそれほど多くなくても、閲覧の深さを示す指標が比較的高い傾向が見られました。
この違いから、専門的な記事は職場の認知や関心形成に、職場紹介や募集情報は比較・検討に、それぞれ役立っているのではないかと考えています。もちろん、ページが深く読まれたことだけで、応募の意思決定に貢献したと断定できるわけではありません。それでも、ページごとの役割を考えるうえでは参考になる情報です。
情報の役割に合わせて、次のページへの導線を設計する
専門的な記事を読んで興味を持った人が、そのまま閲覧を終えてしまうと、職場の特徴や募集情報を知る機会を逃してしまうかもしれません。そこで今回の案件では、検索からの訪問を集めている記事と、候補者の比較・検討を支えるページをつなぐ導線の改善も検討してきました。
例えば、仕事内容を紹介する記事から職場の特徴やスタッフインタビューへ案内し、さらに見学・面談の申し込み方法を確認できるようにする、といった考え方です。実際の運用でも、職場や業務内容を紹介するページから見学案内への導線を追加するなど、一部の改善を行っています。
このように、コンテンツを評価する際には、そのページ単体のアクセス数だけでなく、候補者が次に必要とする情報へ進めるかという視点が役立ちます。認知を広げる記事と、応募を後押しするページでは役割が異なるため、同じ指標だけで評価する必要はありません。
SNSの効果は、直接的な問い合わせ数だけで判断できるのか
アクセス解析で把握できる経路には限界がある
今回の案件では、採用サイトへの問い合わせが継続して発生している一方、ある分析期間における問い合わせユーザーの初回流入経路には、SNSが確認できませんでした。
ここで注意したいのは、「初回流入経路にSNSがなかった」という結果と、「SNSから問い合わせが発生していない」という主張は同じではないということです。
Google Analytics 4(GA4)などのアクセス解析では、ユーザーが最初にWebサイトを訪れた経路と、個々の訪問が発生した経路を分けて確認できます。例えば、最初は検索から訪問し、その後SNS経由で再訪問した人でも、初回流入経路では検索に分類されます。
また、SNSの投稿を見て職場を知り、後日Googleなどで検索して初めて採用サイトを訪問した場合には、Webサイト側のアクセス解析だけで、検索前のSNS接触まで把握することはできません。
したがって、初回流入経路にSNSが確認されなかったことは、SNSの間接的な効果が存在しない証拠にはなりません。一方で、SNSを運用しているから検索流入や問い合わせが増えた、と断定することもできません。
採用担当者の話は、仮説を考える手がかりになる
今回の案件で参考になったのが、採用現場の担当者からの情報です。見学やカジュアル面談に訪れる方にも、SNSの存在は認知されているようだという話がありました。
これはアンケート調査で確認した結果ではなく、担当者の聞き取りに基づく定性的な情報です。そのため、SNSの存在を知っている人が何割いるのか、実際に投稿を閲覧したのか、投稿が応募の動機になったのかまではわかりません。それでも、アクセス解析では把握しきれない情報接触を考えるうえで、無視できない材料だと考えています。
こうした仮説を検証する方法としては、見学や面談に訪れた方に、応募前にどのような情報を参考にしたかを任意で尋ねることが考えられます。SNS、採用サイト、求人媒体、知人からの紹介などを複数選択できるようにし、どの情報が参考になったかを聞けば、コンテンツ改善にも役立つ可能性があります。
ただし、これは今後の検証方法としての提案であり、今回の案件で同様の調査を実施して効果を確認したという意味ではありません。また、回答者の記憶には限界があるため、採用選考とは切り離した任意の情報収集として扱う必要があります。
自社の採用マーケティングを改善するには、何から始めるか
今回のような複数年の分析は、最初から完成した仕組みがあったから実現したわけではありません。まず月次で取得できる情報を整理し、気になる傾向から仮説を立て、それを翌年以降も確認するという積み重ねです。
中小企業が採用マーケティングの効果測定を始める場合も、最初から高度な分析環境を用意する必要はありません。現在利用している採用媒体やWebサイト、SNS、採用担当者の記録をもとに、次の順序で整理すると始めやすいと思います。
- 採用候補者の年間行動を整理する。 過去の問い合わせ、応募、説明会、面談、採用決定の時期を確認し、情報収集や比較・検討が活発になる時期について仮説を立てます。
- 取得できるデータを同じ期間で比較する。 採用サイトの訪問数、閲覧ページ、フォーム行動、SNSの閲覧状況などを整理し、採用活動の実績と照らし合わせます。媒体ごとの指標を同じ成果として単純合算しないよう注意します。
- 候補者の検討段階に合う情報を用意する。 認知を広げたい時期には職場の雰囲気や仕事の魅力を、比較・検討が進む時期には仕事内容や募集条件など、判断材料になる情報を充実させます。
- 仮説を検証し、必要に応じて見直す。 施策を実施した後も、翌月や翌年の動きと比較します。想定と異なる結果が出たときには、その理由を考え、行動モデルや情報発信の方針を更新します。
特に応募数が少ない採用活動では、単月の問い合わせ件数だけで良し悪しを判断するのは難しいものです。前年の同じ時期との比較や、問い合わせ前にどのようなページが閲覧されているかといった情報を組み合わせることで、改善すべき点を考えやすくなります。
また、採用サイトだけでは候補者の行動を十分に把握できない場合もあります。アクセス解析の数値に加えて、見学や面談でよく聞かれる質問、採用担当者が把握している候補者の関心なども判断材料にすると、データだけでは見えなかった課題を発見できるかもしれません。
まとめ:採用マーケティングは、データから仮説を立てて改善を重ねる
採用サイトへのアクセスが増えた、SNSのフォロワーが増えた、問い合わせが発生した。いずれも採用広報を評価するうえで参考になる情報ですが、それぞれの数字だけで施策全体の成否を判断することはできません。
今回の採用支援では、アクセスが減っているのに問い合わせが増えるという変化から、候補者の年間行動について仮説を立てました。その後もセッション数、PV数、閲覧ページ、フォーム行動などを継続的に確認し、2年目のデータで検証。3年目以降は、確からしいと判断した傾向を月次レポートの季節要因として取り入れています。
また、SNSからの直接的な成果を把握しきれない場合にも、現場の声から候補者の情報接触について仮説を考えることができます。ただし、数字で確認できない効果を都合よく成果として扱わないことも大切です。
私が考えるデータドリブンな採用マーケティングとは、数字に従って機械的に判断することではありません。実際のデータから仮説を立て、現場の状況と照らし合わせながら検証を重ね、次の判断に生かしていくことだと考えています。
まずは自社の採用候補者がいつ、どのような情報を必要としているのか。その時期に、必要な情報を届けられているのかを整理するところから始めてみてください。
採用サイトとSNSの基本的な役割分担については、関連記事「広告に頼る前に。採用サイトとSNSで、相談につながる流れをつくる」でも紹介しています。採用広報の運用や効果測定について整理したい場合は、現在のデータや発信内容を確認するところからご相談いただけます。
